最新のインフレ率と雇⽤統計データは、⽶国経済が鈍化傾向にあることを裏付けており、ブルームバーグ‧インテリジェンス(BI)のドル安⾒解の正当性を確認する内容となっている。だが、短期的にはドルのダウンサイドリスクの度合いは、⽶連邦準備制度理事会(FRB)の「⾦利をより⾼くより⻑く」維持するとのメッセージへのコミットメントに左右されるだろう。1ユーロ=1.10ドル(約162円)割れが⽬前に迫っており、もう⼀段のユーロ⾼ドル安に向かう可能性もある。しかし、「FRBには逆らうな」という市場の格⾔は忘れるべきではないだろう。
ドル弱気⾒通しが強まる⼀⽅で、慎重な姿勢が必要
ドル弱気⾒通しが強まる⼀⽅で、慎重な姿勢が必要ドルに対する強気の⾒⽅が市場にある中で、直近の⽶国経済指標が実質‧名⽬ともにその鈍化傾向を⽰す予想外の内容だったことを受けて、年末にかけてドル弱気の⾒⽅が息を吹き返している。中期的にドル安とみるBIの⾒⽅に対しても、改めて信頼度が増していると⾔えよう。しかし、慎重さは必要だろう。⽶国のマクロ経済動向の変化が初期段階(1カ⽉だけではトレンドとは⾔いがたい)にあることを考慮すると、BIでは、FRBがすぐにはハト派的な表現を採⽤することはないとみている。これは、⽶国債利回りの低下とそれに伴うドル安が起こらないという意味ではないが、FRBが市場へのメッセージを調整するまでは、それほど⼤きな動きにはならないだろう。
そのため、年末までにユーロ‧ドル相場が1.10ドル、英ポンド‧ドル相場が1.25ドルを突破する可能性が再び出てきた。しかしユーロが対ドルで1ユーロ=1.15ドル、英ポンドが1ポンド=1.30ドル⽔準を付けると予想
する向きは、2024年まで待つ必要があると思われ、それまでは不安定な動きとなるだろう。
変遷するドル相場シナリオ: チェック項⽬すべて弱気⽰す
23年を通してドル相場の⽅向性を左右する要因は変わり続けてきた。BIでは今年、シナリオ4(チャート参照)でスタートした。⽶国経済の軟化、インフレの減速、ほぼピークを迎えたFRBの利上げ、利下げ議論といった材料を背景とするリスクオン、ドル安のシナリオだ。4-6⽉(第2四半期)後半には、シナリオ2への急転換が起きた。⽶国経済データの上振れ、インフレ再燃、予想ピーク⾦利の上昇、様⼦⾒ムードの市場、そしてドル⾼へというシナリオだ。今夏にはシナリオ3でドルがさらに上昇した。その背景には、実質経済成⻑率の改善とインフレ鈍化に伴い、市場でFRBが⾦利をより⾼くより⻑く維持するとの観測が広まったことがある。⾜元の⽶国経済指標の軟化、特に労働市場の減速とインフレの鈍化でドル情勢は再びシナリオ4に戻っており、BIではこれが24年にかけて続くと予想する。