ハイパースケールクラウドでは、⼈⼯知能(AI)向けインフラの⾼速化に向けた投資が急務となっており、2024年にはクラウドネットワーキングの成⻑に拍⾞がかかるとみられる。⽶市場調査会社650グループによるクラウドネットワーク市場全体の売上⾼予想が、14%増の138億ドル(約2兆900億円)となっている中、AI向けイーサネットへの⽀出は26億ドルと71%の⾼い伸び率が⾒込まれている。主に恩恵を受けるのは⽶通信機器のアリスタネットワークスと半導体メーカーのエヌビディアだが、ネットワーク機器⼤⼿のシスコシステムズも存在感を⾼めることになるだろう。イーサネットは⽶半導体メーカー、ブロードコムの最新チップに⽀えられ、24年の新AI導⼊競争でエヌビディアのインフィニバンドに対して優位に⽴つ可能性がある。
ネットワークへのAI導⼊のモメンタムは継続
クラウド分野へのAI導⼊競争によってAIインフラに対する投資ニーズが継続的に促進されていくとみられ、⾼速‧低遅延ネットワーク機器需要は今後数四半期にわたり旺盛となろう。フェイスブック親会社の⽶メタ‧プラットフォームズや⽶マイクロソフトといったハイパースケール‧クラウド‧プロバイダーは、来年も設備投資を抑制していく⾒込みだが、AI競争が激化していることから、同分野への健全なインフラ投資は維持されると思われる。今年はAI投資が旺盛だったこともあり、今後各社の売上⾼競争はさらに厳しいものになるだろう。⼀⽅、AIのワークロードや⼤規模⾔語モデル(LLM)分野の成⻑が予想され、⾼額機器でAIフットプリントをスケールアップおよびスケールアウトするニーズが低下することはないだろう。
650グループによると、クラウドネットワークの売上⾼が24年には14%増の138 億ドル、AI向けイーサネットネットワーク売上⾼が71%増の26億ドルになることが予想されている。
⽀出の90%は⼀般的クラウドネットワークへ、需要は安定
⼀般的なハイパースケール‧クラウド‧ネットワークに対する需要は、能⼒増強による投資ニーズが⾼まる⾒込みのため、24年には安定した伸びが⾒込めそうだ。AIネットワークは23年に⼤きな関⼼を集めたが、当⾯この傾向が続くと思われる。だが、⼀般的なクラウドコンピューティングはクラウドネットワークへの総⽀出額の88%を占めている。クラウドプロバイダーは過剰容量をほぼ解消しつつあるとみられるため、24年も受注動向の改善が維持されるもようで、⼀般的なクラウドネットワークの売上⾼成⻑率は7%が⾒込まれる。
1年続いたクラウド事業のコスト抑制によりアップグレードの必要が⽣じていることに加え、⼀般的なクラウドトラフィックはAIの成⻑の恩恵を受けると思われる。そのためより⾼額なネットワーク機器の導⼊で能⼒増強へのニーズが⾼まるだろう。
エヌビディア、アリスタ、ブロードコムを追いシスコが台頭
エヌビディア、アリスタ、ブロードコムは、24年もハイパースケールネットワークの先導役として、引き続きクラウドAIネットワーク売上⾼の⼤部分を占める優位な位置にある。エヌビディアは、GPUクラスターのクラウドへの導⼊が堅調で、引き続きインフィニバンドの売り上げを伸ばしている。⼀⽅、バックエンドのAIネットワークではイーサネットの採⽤が24年に拡⼤するとみられ、ブロードコムの「ジェリコ3Ai」チップの⽣産増に伴い、25年にはその影響が広がる可能性がある。
アリスタも明らかに恩恵を受けており、23年の総売上⾼の伸びは33%以上となっている。同社は24年も緩やかに成⻑し、クラウドネットワークのモメンタムを維持するとブルームバーグ‧インテリジェンス(BI)では予想している。シスコは、同社の「シリコン‧ワン」チップが注⽬を集め、ブロードコム製チップの有⼒な代替品として浮上する中で、23年にはクラウドAI分野の受注が5億ドルに達しており売り上げをさらに伸ばす可能性がある。
24年はイーサネットがインフィニバンドを抜きリードへ
インフィニバンドとイーサネットの戦いは、ブロードコムのジェリコ3Aiと「トマホーク5」チップのリリースにより、24 年に決着がつくと思われる。⽶アルファベット傘下のグーグルは、オープンコンピュート‧プロジェクト(OCP)を通じて「ファルコン」を公開し、メタはRDMAオーバー‧コンバージド‧イーサネット(ROCE)を導⼊するなど、クラウドプロバイダー各社がエヌビディアによるAIインフラ⽀配からの脱却を図っていることが⾒てとれる。イーサネットはネットワーク容量で優位性を持っているのが主な強みだ。エヌビディアの800G(ギガビット∕秒)に対して、イーサネットのポート速度も最⾼800Gだ。
イーサネットの持つオープンエコシステムとより⼤きなサプライヤー基盤が、インフィニバンドと⽐べると経済性の向上に役⽴つため、クラウドプロバイダーにとって魅⼒が⼤きい。BIの24-25年の⾒通しとしては、イーサネットは「スケジュール済みファブリック」バックアップなどのテクノロジー⾯の強化により、データトラフィック管理とデータ信頼性における格差が縮⼩し、インフィニバンドのテクノロジー⾯での優位性がさらにまた⼀つ減ることになりそうだ。
800G増加、1.6Tが視野に、400Gサイクル短期化
クラウドの積極的なAI導⼊により、光学製品の製品サイクルが短期化している。23-24年は400G(ギガビット)製品の売上⾼およびポート数が増加する⾒込みだが、そろそろ800Gと1.6T(テラビット)スイッチ導
⼊に軸⾜を移す時期に来ているようだ。650グループによると、23年の400Gスイッチの売上⾼はこのままいけば33%増の38億ドル、ポート数も30%増となり、24年の売上⾼はさらに増加して46億ドルになる⾒込みだ。
しかし、AIワークロードの対数的増加により800Gの販売が加速し、24年は19億ドル、25年には2倍の39億ドルに達する可能性がある。そのため、24年が400Gの売上⾼のピークとなるだろう。ブロードコムのトマホーク5イーサネットチップ(51.2T)が利⽤可能になれば、800Gの普及促進に役⽴つだろう。1.6Tポートの採⽤は、25-26年にかけて800Gの⽔準に迫るとBIではみている。これはちょうど「トマホーク6」チップ
(112T)がリリースされる時期と重なる。