アップルの低調な成⻑⾒通し受け、中国で労働争議への懸念浮上も
⽶アップルの中国市場での低調な成⻑⾒通しを受け、⼯場稼働率低下に起因する労働問題が発⽣しかねないとの懸念が⾼まりそうだ。中国の10⽉の製造業購買担当者景気指数(PMI)も予想外に50を割り込んだ。労働問題はインドやベトナムといった国々でも発⽣しているが、中国からサプライチェーンが移転すれば、中国の若年層の失業率が悪化する可能性がある。
業績予想未達で、労働者への報酬に圧⼒も
アップルの⼤中華圏における7-9⽉(第4四半期)売上⾼は、前年同期⽐2.5%減少し、アナリスト予想を下回った。年末休暇シーズンを前に同社の収益⾒通しが低調ななか、⼯場稼働率の低下や地政学的要因によるインドなどへサプライチェーン移転を受け、中国の電⼦機器サプライチェーンで労働争議が発⽣する懸念が⾼まりそうだ。
これにより、労働者への⽀払いが減額される可能性がある。アップルの「iPhone(アイフォーン)」を受託⽣産する台湾の鴻海精密⼯業(フォックスコン)は、昨年サプライチェーン上の混乱が⽣じた際には特別ボーナスを⽀払うことで労働⼒確保を進めた。同社は最近、中国政府による税務調査の対象となっており、労働関連の事件が発⽣すればさらなる打撃となるだろう。昨年、河南省鄭州市のフォックスコン⼯場で起きた給与を巡る労働ストライキを受け、アップルの中国に対する脆弱(ぜいじゃく)性ついて調査を促す株主提案を、権利擁護団体が提出している。
年末休暇シーズン控え、在庫積み増しは低調
電⼦製造サービス(EMS)と受託設計‧製造(ODM)セクターの在庫⽇数は7-9⽉期の58⽇と同⽔準で推移しているとみられ、今後数四半期で低下に転じるかもしれない。しかし、在庫回転⽇数は相対的に⾼い⽔準にとどまる可能性もあり、その場合は同セクターの在庫補充も2024年にずれ込むだろう。過去の在庫調整サイクルでは、EMS‧ODMセクターの在庫の減少(前年⽐)は通常3-4四半期続いていた。
⼯場移転でも労働問題解消とはならず
電⼦機器サプライチェーンをインドやベトナムなどの低コスト地域に移転しても、必ずしも労働慣⾏が改善されるわけではないだろう。アップルとフォックスコンはインドのカルナタカ州に労働法改正を働きかけ、勤務時間を9時間シフトから1⽇2回の12時間シフトに変更、残業時間制限の緩和と⼥性従業員の夜勤許可も認められた。
フォックスコンのインドのチェンナイ⼯場では、昨年12⽉に⼤量の⾷中毒事件発⽣で臨時労働者が抗議活動を起こし、21年にはタミル‧ナドゥ州で同社従業員が抗議して⾼速道路を封鎖した。アイフォーン⽣産を請け負
う台湾の緯創資通(ウィストロン)のインド⼯場では、20年12⽉に賃⾦を巡る問題で暴動が発⽣している。ベトナムでも、労働者の集団的発⾔を制限する組織的な措置が報告されており、賃⾦と⽣活環境の改善を求める要求が満たされない場合、労働者によるストライキが⽐較的多く発⽣している。
低調なPMIデータが若年層の失業率上昇を裏付ける
中国の財新の製造業PMIは10⽉に49.5と、前⽉の50.6から低下して、7⽉以来の最低⽔準に落ち込んだ。エコノミストは50.8への若⼲の改善を予想していた。このデータは、49.5へと再び低下した中国国家統計局の公
式統計とも⼀致しており、政府によるさまざまな経済活性化策にもかかわらず、製造業活動が再度縮⼩に向かっていることを⽰している。PMIが50を下回れば、⼯場稼働率の低下により労働争議リスクが⾼まると考えら
れ、景気刺激策のさらなる強化が必要なことが⽰唆される。
国家統計局は、16歳から24歳の⼈⼝の失業率が21%を超えたことを受け、7⽉以降は若年層失業率の公表を停⽌している。
サプライチェーンの社会関連問題の開⽰、環境に後れ取る
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的⼤流⾏)は収束したものの、世界的なリセッション(景気後退)と地政学的緊張を巡る不透明感はサプライチェーン管理に重くのしかかっている。昨年は、アップルのアジアでのサプライチェーンに関連した労働‧社会問題が明るみになり、炭素排出関連の問題よりも注⽬されたと⾔えるかもしれない。ブルームバーグ‧インテリジェンス(BI)の分析によれば、労働関連データの適切な開⽰を怠ったアップルのサプライヤーの数は、環境開⽰を怠ったサプライヤーよりも多い。
電⼦機器のサプライチェーンでは、労働や雇⽤に関する開⽰が環境関連の開⽰より⼤きく後れている。例えば、アップルの労働と雇⽤慣⾏に関するブルームバーグESG(環境‧社会‧企業統治)スコアは4.7で、同社の上
場サプライヤー企業の平均スコアは2.7だ。アップルの筆頭サプライヤー2社のスコアは、フォックスコンが情報開⽰不⾜でゼロ、台湾積体電路製造(TSMC)は7.4となっている。
サプライチェーン企業統治